ニュースレター 1月の随想(エッセー)
イキイキ「今、この瞬間」生きよう
風の谷こども園 園長 川副孝夫
2026年に入り このごろ思うことをエッセーとして書きたいと存じます。
皆さまは年末年始、如何お過ごしでしたでしょうか。年が改まると、ほんの一瞬であっても、心が新たになるから不思議ですよね。
過去のことは一旦捨てて、いや見事に棚上げして、心が切り替わって、新しく生きよ、一瞬でも、束の間でも、この与えられた命を新しくして生きよ、人生を新らしくして生きよ。人生は、いや全世界は、空しいことがたくさんあるけれど、それこそこの与えられた命を、人生を、日々を、いや「今、この瞬間」を、まさしく精一杯生きよ。そのことを悟れと響いてきます。
何時の時代からなのでしょうか。人類が生み出した、新しく生きる知恵なのでしょうか。
こどもをみていると、これまででも無く、これからでも無く、新たな不思議に出会う「今、この瞬間」を楽しんで、成長しているように見えます。
20年前のエピソードを紹介します。
H君(5歳)のお母さんから、「また脱走して、行方がわからなくなった。」と、連絡を頂きました。
皆さんもこの連絡をもらったら、緊張が走る出来事ですよね。一瞬そう思ったのですが、お母さんの声は、落ち着いていて、「また」なのですよと心の内が伝わって来ました。私たち保育園の職員も動員し、H君の行きそうなところに向かいました。
再びお母さんからの連絡です。
「見つかりました。一時間半歩いて、菅野まで行きました。走りぱなしでした。」
その安堵の声の後の笑え声に、お疲れさまと心の中で私も安堵しました。菅野は自宅の栗山浄水場からは、4~5キロぐらいの距離でしょうか。お母さんの「勘」というセンサーは、警察や我々より優れていました。
当時のH君は、目が離せません。園を“脱走”して、街の中を探索する楽しみを見つけてしまったようです。車などの危険が予測できるので、どうしても“脱走”と言ってしまいます。しかし彼自身にとっては、街の中には、いつもと違う、興味や好奇心や感動する未知の世界と出会える、あのワクワク、ドキドキ、ハラハラ、訳の分からない、緊張と興奮を身体全体で感じているに違いありません。
一日中水道から出る水と、手に掛かる感触や変化は、触覚だけでなく、視覚に入る無限の輝きを毎日毎日、何か月も獲得していました。年長になってからは、砂と水と自分自身の身体全体で感じ取っていました。さらに運動能力が高くなり、街の景色など視覚、聴覚などから入って来る刺激に心も身体も動かされているようでした。そのことに気づいたお母さんは、H君と街探索に出掛けることを始めました。今回の街探索行動は、園での散歩や園脱走の彼自身の中から湧き起ってくる超自然の行動であり力であります。
こどもの世界は、実にすばらしい。未知の世界に出会えるから、心も身体も動く、この感覚から生まれるハラハラ、ドキドキ、ワクワク、この訳のわからない「今、この瞬間」の“変化”に富む世界を感じ取るから、こどもはすばらしい。まさに“生”の塊である。この“変化”を楽しめる時、人は、イキイキしているのかもしれませんね。
「サバイバルゲームですよ!」とお母さんの声は明るかった。
こどもを侮ってはいけません。大人である私たちの魂を取り戻す、大事な存在です。
こどもは面白い、ここに畏敬の念が込み上げてきたら、あなたもその瞬間、イキイキ新しく生きる力が備わったのです。成長したのです。
こどもに、感謝です。
今年一年が、今、この瞬間に恵みと平安があなたにありますように。
※なお、このエピソードは、大人もこどもも人類が築いて来た知恵を、現代は失いつつあるのかもしれません。
